割れたエメラルド


あんなにまだまだと思っていたのに、もうカナダは目の前で手を振っている。今も“ほんまかいな”と思ってしまう。
けれど、荷物を詰め始めるとワクワクする。あれも、これもと増えるばかり。何年いてても良さそうな荷物。また、ひっくり返して詰め直す。
カナダには従姉妹がいる。母の妹の娘なのだ。母も彼女のことを何時も気に掛けていて、気にしながら死んだと思う。
さて、こんな不思議が起こるのか
もう何十年も使っている私の指輪の石が割れた。
カナダに行く前に縁起でもない!  と思いながら、喰いこんでいたリングを外すと指に形が付いていてブッサイクこの上ない。
ふと見ると薬箱の中で、母が死ぬまで付けていた指輪がひかった。
はめてみるとこれがピッタリなんだ。
割れたエメラルドは縁起が悪いものでは無かった。母は連れて行って欲しかったんや。
可愛い姪に会いたかったんや。
カナダでこの話をしよう。そして、彼女が望めばこのリングは置いてこよう。
                       
                                     M.Y