鐘の音よ とどけ!


奈良の般若寺で平和の集いがあると聞いた。そのお寺には原爆の火が燃え続けているのだ。
ぜひ、見てみたい。そして、出かけた。由緒あるお寺で庭も広く、自然を生かした造りで風情がある。
原爆の火は今もこのお寺の一角で燃え続けているのだ。

その火の下に集い世界の核廃絶を訴えるイベントなのだ。去年はジャズのライブがあり、今年は落語だそうだ。
鬱蒼と茂る大木の下に火は周りの音を吸い込むように、静かに揺らめいて燃えていた。
この火を絶やさず守り続けてこられた御住職のお話の後、被爆者のお二人が献花され、参加者一人一人の献灯が始まる。
蝋燭を手に歩み出る。  境内には砂利道を進む足音と、降り注ぐような蝉しぐれだけが響いている。
私には原爆で亡くなられた方々の、哀しくて、悔しい叫び…と言うか、泣き声に思えてならないのだ。
思わず木々の梢を見上げ、手を合わせ、ご冥福を祈らずにはおれなかった。
その後 平和の鐘 の一人一打が始まる。揺らめく灯りのよこで鐘楼を打ち鳴らす。
蝉しぐれと、砂利の音と、鐘 の音は高く深く、打ち寄せる波のように伝わって行った。




式典が終わっての帰り道。旧街道のような街並みの間に、まるでロシアの建物のような丸い屋根が見える。
なに? あれは。
ふと見ると小さな立て看板がある。 『奈良少年刑務所敷地内』とかいてある。へ〜 刑務所がこんな所にあるの? 
民家の突きあたりがパッと開けて、素敵な建物が立ちはだかっている。その上は 空しかない。
本当に建物はすてきでカッコいいのだ。でも刑務所。それも少年の。
胸が痛む。
何でここに来たの?  きっと辛い事情があったのでしょう。
立派に、きっちり更生して下さい。この門から出てくる日を待っている人がいますよ。
きっと、さっきの鐘の音もとどいているはず。
核兵器廃絶運動も大事なこと。 でも差別のない社会を作って、誰もが平和に暮らせる社会にするのも私達のつとめかも…と思った一日でした。

                                                M.Y